世界中で愛されているオートバイブランド『HARLEY-DAVIDSON』。そのなかでも1930〜1960年代に生産されたモデルは「ヴィンテージハーレー」と呼ばれ、アメリカを中心に世界中に熱狂的なコレクターが存在する。高いものは1台1000万円を超える高額で売買されるという。その整備や販売を行ない、日本におけるヴィンテージハーレーの草分け的存在として、著名人をはじめ多くのマニア達から絶大な信頼を集めているのが『株式会社 船場』(以下「船場」敬称略)だ。ショールームと整備工場を備える本社にて、代表の岡田学さん、学さんの弟の岡田康さん、整備士の細見昌男さんにお話を伺った。
船場は、1947年、『船場モータース』として大阪船場で産声をあげた。創業当時は、日本製オートバイの整備を業務の柱としていたが、徐々に店舗近くにあった米軍基地の若い兵士たちが、個人のハーレーを修理に持ち込むようになった。創業者の岡田博さんは、当初、ハーレーに関する知識をほとんど持っていなかったが、根気強くハーレーと向き合い、次第に知識や技術を身につけていったという。
その後、荷物運搬用オートバイの製造販売やカワサキ車の販売等にも取り組んだが、1993年頃から『ナナハン(750ccクラスの大型二輪自動車)ブーム』の衰退を機に、ヴィンテージハーレーを主力とした現在のビジネススタイルへと切り替えていく。
現在、店を訪れるのは、世界中のヴィンテージマニアたちがほとんど。オートバイだけでなく、船場でコレクションしている看板等を目当てに来る人も多い。また店内には、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)のオープニングイベントで船場のハーレーに乗ったアーノルド・シュワルツェネッガーの直筆サインや、常連の有名人の方々の写真が飾ってあり、船場の人気の高さを物語っていた。
状態のいいヴィンテージハーレーは、その多くをマニアたちが所有しているといわれている。代表の岡田学さんも、アメリカで暮らしていた時に出会ったマニアたちや、船場が長年かけて築いてきたコレクターとのつながりを活かしながら、ヴィンテージハーレーやオリジナル部品の取引をしているそうだ。そのため、船場のショールームには、世界中のマニアが目をつけている、状態のいいハーレーが数多く揃っている。
創業者の岡田博さんは、創業時からつなぎを着て整備をしていた。1940年代に主流であった『白いつなぎ』を手にするうちに、同じ大阪に拠点を構えていた山田辰のつなぎに出会った。なかでも『AUTO-BI』ブランドの真っ白なつなぎを身につけることに強いこだわりを持っていた。代表の学さんと兄弟二人三脚で船場を支える康さんは、「うちの親父はAUTO-BIの真っ白なつなぎとカッターシャツ、ネクタイの組み合わせを”正装”と呼んでいました。90歳で亡くなるまで、愛用のAUTO-BIつなぎをいつも手元に置いていたんです。最後は棺の中に一緒に納めてあげました」と語る。現在でも、船場の整備士たちはAUTO-BIの白いつなぎを着て作業をしている。
勤続25年を迎えた整備士の細見昌男さん。ヴィンテージハーレーの整備は、現在のオートバイに比べて手間も苦労も多いという。「お客さんが愛用しているハーレーを整備するだけでなく、アメリカの納屋で何十年も眠っていたものを一から組み直すなんてこともあります。今の電気部品の多いオートバイの整備とは違って、自分たちの目で車体を確認して、部品を分解してから組み直します。手やつなぎを真っ黒に汚しながら作業するので、綺麗事ではすまないですね(笑)」。細見さんのつなぎのポケットはドライバーやライト、ウエス等の工具類でいっぱいだ。
ヴィンテージの場合、古い部品にも歴史的な価値がつくため、壊してしまうと替えがきかない。整備マニュアルもないので、我慢強く経験を重ねて、技術を体得していくしかない。「整備の仕方は、先輩たちの背中を見て覚えました。エンジン等の主要な部分を整備できるようになるのに、10年くらいはかかったと思います」。経験豊富な細見さんでも、今も修理方法がわからずに悩まされる場面があるという。「そんなときはとにかく“原点”に戻って、丁寧に目の前の車体と向き合っていくしかないですね」。そう語る細見さんは修理の終わったヴィンテージハーレーに跨り、“ドルルッ”と太いエンジン音を響かせた。
モーターショーなどのイベントに参加する際は、船場のスタッフは全員、新調した真っ白なAUTO-BIつなぎを身につける。なぜ船場はAUTO-BIの真っ白なつなぎを選び続けるのだろうか。代表の学さんはこう語る。「私たちは父の代から、AUTO-BIのつなぎだけを着てきました。山田(辰)さんとは地元も一緒なので、2~30年前は自転車で直接行って、つなぎを選んで買うことも多かったんです。もう山田さんで買うのが当たり前、という感覚に近いです」「白を着続ける理由は、白いつなぎは船場の“原点”だから。それに私たちは、オートバイを愛する人の手によって、長年大事に守られてきたものを提供しているので、やはり白の“清潔”なイメージがしっくりきますね。最近は黒い服を着てハーレーに乗る人が多いのですが、黒がアウトローに対して、白は清いイメージがあると思います」。
代表の学さんはご自身の仕事についてこう話す。「ヴィンテージハーレーに魅了される人の共通点は、オートバイに限らず古いものが好きな人です。私自身も古い映画でしか見た事のないようなモノに触れると、感動を覚えます。私たちの仕事のやりがいは、その感動を壊さないよう“いかにミスすることなく、次の世代に古いものを継承できるか”ということだと思いますね」。オートバイを愛し守り続ける船場には、常に原点に立ち返り、本質を追求し続ける潔白な誠実さがある。船場に根付くその崇高な精神が、世界中のマニアたちから信頼され続ける理由なのだろう。
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整備士の細見さんが着用していたのは、AUTO-BIブランドの歴史そのものであるつなぎ服
「1-1500」。素材は、昔から変わらず、14葛城 綿100%を使用。 -
フロントボタンは生地でカバーされ、表にでることがないため、整備の際に車体を傷つける心配なく作業を行なうことができます。