山田辰のつなぎが活躍する現場を追う『GREAT WORKERS』。第6回目は、沖縄で航空機整備事業をおこなう 『MRO Japan株式会社』。安全な空の旅を支える、働く整備士たちに会いに行きました。
(※本記事の取材は、2019年7月に実施しております。)

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人は旅をする。まだ馬で移動していたような古の時代から、手の中のiPhoneで世界と簡単に繋がることができる令和の今もそれは変わらない。ただ、移動手段は大きく変わった。人間は飛行機に乗って、それまででは考えられないくらい遠くに、短時間で行けるようになった。そして、その飛行機は世界経済の拡大に伴い、今後さらに便数が増えていくと予測されている。東アジアの中心に位置している那覇空港も、沖縄県の商業・観光業とともに、これからますます大きな発展が期待されている空港のひとつだ。

MRO Japan株式会社(以下、「MRO Japan」敬称略)は、航空機整備事業をおこなう会社だ。MROという名前は、航空機整備を指すMRO(Maintenance・整備、Repair・修理、Overhaul・分解検査)に由来する。那覇空港の滑走路に隣接した、国内最大級の規模を誇る格納庫を持ち、約170名の整備士たちが巨大な旅客機の整備をおこなっている。真夏の沖縄を訪れ、汗がしたたる空間の中、大きな機体と真摯に向き合う整備士たちに話を聞いた。

亜熱帯に属する沖縄の日差しは強い。夏には本州の1.5~2倍の紫外線が照りつけ、地上の全てを焦がす。MRO Japanの格納庫も、空調設備はあるが、わずか数分で汗がじんわりと滲んでくる。MRO Japanが那覇空港での事業をスタートしたのは、2019年1月。それ以前は、大阪にある伊丹空港を拠点とし、前身である『全日空整備株式会社』の時代を含めると、約60年という長い歴史を持つ。

事業推進部の植草さんは、沖縄移転の背景には、航空機整備サービスを安価に提供する、海外企業との厳しい競争があるという。「安価を売りにする企業と対等に競っていくには、どうしたらいいか。その解決策として我々が考えたのが、沖縄移転。東アジアの中心である沖縄に拠点を置いて、海外のLCC(格安航空会社)が乗り入れた際に、沖縄の地で当社が協力をする、という付加価値をつけて競 争力を発揮しようと考えたんです」。

会社は大阪での歴史が長く、関西出身の社員も多いなかでの沖縄移転。社員の人生にも大きなインパクトとなる決断だったが、9割近くの社員が新天地沖縄で働くことを選んだそうだ。植草さんが当時のことを振り返る。「伊丹空港での60年の歴史に幕を閉じるというのは、大変な決断だったのですが、多くの社員が沖縄へついてきてくれたことは、とても嬉しいことでした。やはり機体整備に強い興味関心を持ち、知識技術を兼ね備えた社員ばかりなので、やりがいを感じて一緒に来てくれたのだと思います」。

新天地でのスタートに合わせて、社員のユニフォームも一新。自分たちには想像もつかないような新しいユニフォームをと、デザインは一線で活躍するファッションデザイナー山口壮大氏に依頼した。製作は、つなぎのフルオーダーにも柔軟に対応できるメーカーとして山田辰が選ばれた。「沖縄らしさをコンセプトに、肘・膝当てに沖縄の鳥を描き、通気性もよく、軽い素材を使うなど、細部にもこだわりました。山田辰さんは、デザイナーさんの意向に添いつつ、長年培ったつなぎ作りのノウハウをもとに、機能性、耐久性にも配慮しながら仕上げてくださいました。このユニフォームは見た目も良いので、着るとやる気が出る、と言ってくれる社員もいて好評ですよ」。

MRO Japanでは、2019年の移転を前に、沖縄出身者の採用も積極的に行なっていた。2017年に入社し、入社3年目(※2019年7月当時)を迎えた若手整備士の新垣さんも、その一人だ。「子どもの頃から飛行機に興味があったのですが、高校2年生のときに航空整備士という仕事を知って。周りにその職に就いている人もいなくて、特殊な仕事だと感じたので、自分自身で経験してみたい!と思い、入社を決めました」。

大阪時代のユニフォームを知る新垣さんに、新ユニフォームの感想を聞いてみた。「前のつなぎよりも、とにかく軽くて動きやすいです。ポケットも前より増えていて、チャックではなくベルクロで閉じるので、物を取り出しやすいです」。ポケットに必ず入れるものは、整備マニュアル。勉強熱心な新垣さんは、新しい資格取得に向けても勉強しているそう。「実際に手を動かすと、新しい経験の繰り返しで。毎日学びがあって楽しいです。空を飛ぶ飛行機を見上げて、『あの部品、付けたな、外したな』って振り返るのも、この仕事をしている自分ならではの楽しみですね」。

大学時代、航空部でグライダーに熱中していたという海老名さん。卒業後も航空機に関わりたいと、航空機整備士の道を選んだ。整備の仕事のやりがいを聞いてみた。「飛行機は、多くのお客様の命を預かるので、細かく一つ一つの仕事をきっちりとやり遂げなくてはなりません。責任の重い仕事ではありますが、チームの仲間や経験豊富な先輩たちと協力しあって、自分の役割を果たすことにやりがいを感じています」。

つなぎの着心地を尋ねると、「非常に使いやすい!」と、一言。「通気性がいいだけでなく、穴が開きやすい肘・膝の部分に補強が入っているのも気に入っています。しかも、関節周りは伸縮するので、動きやすいのもいいですね」。

沖縄で新たなスタートをきって約半年。環境の変化も大きかったが、新たなビジネス展開を"沖縄スタイル"と銘打ち、新ユニフォームの導入や、就業形態の変更など、様々な試みを積極的におこなっている。植草さんは、今後のMRO Japanの目標について、いきいきとした表情で語る。「沖縄県や、他企業との連携など、様々な切り口で新たなビジネスを作れるようにしていくつもりです。すでに数社からオファーもいただいているので、その期待に答えられるだけの生産力、品質性を担保できる体制を作っていきたいと思っています」。
日本の南の島で、空の安全を守るMRO Japan。飛行機を愛する男たちは、美しい自然に囲まれた南国の地で、未来を見据えて、今を生きている。

FIN.